イントロダクション
あらすじ
1月20日、よる。
史緒と佐東ちゃんは町外れの踏切にいた。
遮断器の警報音が澄みきった冬の夜空に響く。
佐東ちゃんは今日、ここで死ぬ。
それは彼女自身が1年前に宣言していた事、らしい。
「次に、」
と、佐東ちゃんは口を開く。
「次に、乗る」
冷え切ったレールの上を走る巨大な鉄塊が、ケタタマしい警笛を叫びながら突っ込んできた。
2015年、名古屋の劇場G/PITが主催する「G/PITチャレンジフェスティバル2015」においてグランプリを受賞した劇団「放電家族」のミステリー『しおとさとう』が、G/PITとの共同企画の形で再演決定!
名古屋と東京、放電家族初の2都市ツアー公演を是非お見逃しなく!
脚本・演出より
この作品を書くに当たっての初期衝動は、須原一秀著『自死という生き方:覚悟して逝った哲学者』(双葉社)という書籍を知人から紹介され、タマタマ本屋にあったので手に取った、その瞬間にあったと思う。
内容については割愛するが、僕はすぐに本を購入した。どういうわけか2冊。
読みながらアレコレ考えた事をまとめていくうちに、書籍とは全く異なる物語が頭の片隅に芽生え、それから数年間、ウンウンと構想をだけを練り続けた。だからいざ「しおとさとう」と書こうとなったときにはそれほど執筆に時間はかからなかったと記憶している。
執筆時、妻のお腹には子どもがいて、そしてこれを上演した時、僕は父親になっていた。
生き死にを描くことが多い僕にとって、実生活で新しい命をこの手に抱くという感覚は、いい意味でも悪い意味でも僕の創作活動に大きな影響を与えたと思う。
ただ、出産に立ち会い、この世に命が飛び出してくる瞬間を見たときから、僕にとって「死」という存在が大きくなったのは確かだ。生命保険や子どもの学資保険の「万が一の際には」みたいな文言。嫌でも死を意識する瞬間が増える。
再演にあたり、書き直しをした。それは上記の感覚の変化があったからだ。
初めてご覧いただく方にも、再びご覧いただく方にも、楽しんでいただきつつ、そして何かしら残すことが出来たら、これ以上の喜びはない。
舞台上にいる、「生きている人たち」を、どうかご覧ください。以上、とりとめもなく。
脚本・演出 天野順一朗